それわた

それがわたしにとってなんだというのでしょう、な雲吐き女のつれづれ

少女マンガ的選択と映画『勝手にふるえてろ』

 なんの話かって?決まってんだろ。『勝手にふるえてろ』だよ。今すぐ観て。Blu-ray貸すから。

 間違いなくわたしの人生におけるナンバーワンに君臨する映画。いやまだわからないけどさ。でも少なくとも22年生きてきて、こんなに心を動かされる映画に出会ったことがなかったよわたしは。そして23をもうすぐ終えようとする今も、その感動は冷めていない。

 この映画には、中学生の時より主人公のヨシカが片思い(期間実に十年間!)している相手である「イチ」と、なんだかぱっとしない会社の同僚である、しかしヨシカのことが大好きな「ニ」という二人の恋愛対象が登場する。二人に対するヨシカの迷走っぷりに隠れ喪女を自覚するわたしは滂沱の涙を流さざるを得なかった。ヨシカは、時にイチに再会するためにアグレッシブに行動し、時にニの言動に揺れ動き暴言を吐く。彼女の行動は、いわゆるリア充女子、キラキラ女子から全く程遠いものであると言える。しかしきっとそういったカテゴリ(人間をカテゴリ分けすることはあまりよくないとわかってはいるのだが。ごめんなさい)の人間から見ても、共通するマインドはきっとあると思う。それほどに江藤ヨシカという人物は、どこまでも突き抜けてチャーミングだ。

 さて、このほどわたしは『勝手にふるえてろファンブック 絶滅したドードー鳥編』という、伊藤総さんという方が発行した非公式ファンブック、というか同人誌を購入した。中にはわたしが抱いた感情と同じように熱い言葉がたくさん連ねてあり、友人に並々ならぬ熱を持って布教したにも関わらずあまり共感してもらえずへこんでいたわたしに、「ほら!やっぱりね。同士はいるのよ」みたいなどや顔をさせるに至った。

 しかし、読めども読めども「ニ」についての言及はあれど、「イチ」についての前向きな言がない。ほぼない。「ヨシカにとって、ニと出会うことはイチとの妄想の世界を瓦解させ現実で生きかえらせる重要な出来事だ」的な。「ニという男がむしろファンタジーだよね(笑)」的な、ニに対する言葉。確かに、結末的にはヨシカはニと結ばれる。イチはヨシカの名前さえ覚えていない。しかし、わたしの中に流れる少女マンガの血が「本当の王子様はイチだよ」と騒ぐのだ。ヨシカと同じくイチに恋をしてしまったと言ってもいい(事実あれからわたしはDISH//北村匠海さんにドはまりしてしまった。仁亀が世の中の小学生女子を席巻していても妹がSUPER JUNIORのPVをリビングのテレビで垂れ流しにしていてさえ、ジャニーズにもK-popにも興味がない人生を送ってきたというのに)。

 彼はヨシカの名前を覚えていなかった。しかし、それが何だというのだろう?彼は「君、面白いね」と言った。体育祭での出来事は、ヨシカが思っていた以上に深く意味のあることだった。それでいいじゃないか。答え合わせを足掛かりに、彼ともっと深い仲になるために、こんなに苦労して他人を騙ってまでしたのではないのか。天然王子を手に入れうるチャンスをつかんだのになぜ、それを放棄してニを恋人にしたか。このことは、わたしに衝撃を与えた。憧れの王子様が「お前、面白い女だな」って主人公を選んでくれるのではなかったのか。人生のナンバーワンがオンリーワンに変わっていく瞬間を、わたしは様々な作品の中で何度も目にしてきた。しかしこの作品はそうでないらしい。ナンバー”ニ”をオンリーワンに選んじゃうらしい。そんなのって。そんなのって現実じゃん。フィクションじゃない。戸惑いと混乱。

 少し自分の話をする。誰しもがそうであるように、わたしの中にもヨシカがいる。自分のことを特別だと思っていて、でも実はそうでないことにも気づいていて、それを実感しないよう周りと距離を取りつつ、一方で自分は絶滅すべきではないのかと問うている。現実のわたしにもイチとニは存在する。そしてわたしは今、選択を迫られている。だからこそこの映画は、一年経った今もわたしの中に深く刺さって血を流し続けているのであろう。

 この作品は、画面の中のヨシカを通してわたしのことも「自分の王子様」という幻想から引っ張り上げてくれた、というか引っ張り出された。放り出された。わたしの行く末は冒頭のヨシカの言葉が表しているのだろうきっと。わたしは監視しなければならないイチと一生自分を愛してくれる(かもしれない)ニ、どちらと結婚式を挙げるのか。ヨシカはニを選んだ。わたしはどうか。

 

 伊藤総さんのことを知らないと思っていたが、シネマカリテで一回めの上映を観終わって、どうにか興奮を冷ましたくてTwitterでサーチしたときにツイートを拝見していた。ヨシカと同じコートを買っちゃうなんてなんて素敵な方だろうと思ったのだった。この度は同じ熱を持つ同士たちの文章と出会わせてくださってありがとうございました。紫谷玲奈の短編が一番すきです。